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2015.04.25

交通事故により後遺障害を負った被害者が事故後に別の原因で死亡した場合、将来介護費用はどうなるのか?

 先日、交通事故により後遺障害を負った被害者が、後に交通事故とは別の原因で死亡した場合、逸失利益の算定にあたってはその死亡の事実は就労可能期間の認定上考慮されないということを述べた際に、将来の介護費用は別である旨を併せて述べました。

 なぜ、将来の介護費用については被害者死亡の事実が考慮されるのでしょうか。

 これは介護費用の性質に関わるといえます。
 すなわち、介護費用の賠償は、被害者において現実に支出すべき費用を補填するものであるということを本質としています。
 被害者が死亡した後は、その時点以降の介護は不要であって、実際に介護費が支払われることはなくなる、なので加害者としても介護費用の賠償が不要になるということです。
 そのため、被害者死亡の事実が将来の介護費用の賠償に影響するということになります。

参考判例
最判平成11年12月20日
交通事故の被害者が事故に起因する傷害のために身体的機能の一部を喪失し、労働能力の一部を喪失した場合において、逸失利益の算定に当たっては、その後に被害者が別の原因により死亡したとしても、右交通事故の時点で、その死亡の原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、右死亡の事実は就労可能期間の認定上考慮すべきものではないと解するのが相当である(最高裁平成五年(オ)第五二七号同八年四月二五日第一小法廷判決・民集五〇巻五号一二二一頁、最高裁平成五年(オ)第一九五八号同八年五月三一日第二小法廷判決・民集五〇巻六号一三二三頁参照)。これを本件について見ると、前記一の事実によれば、亡Cが本件事故に遭ってから胃がんにより死亡するまで約四年一〇箇月が経過しているところ、本件事故前、亡Cは普通に生活をしていて、胃がんの兆候はうかがわれなかったのであるから、本件において、右の特段の事情があるということはできず、亡Cの就労可能期間の認定上、その死亡の事実を考慮すべきではない。
 しかし、介護費用の賠償については、逸失利益の賠償とはおのずから別個の考慮を必要とする。すなわち、(一)介護費用の賠償は、被害者において現実に支出すべき費用を補てんするものであり、判決において将来の介護費用の支払を命ずるのは、引き続き被害者の介護を必要とする蓋然性が認められるからにほかならない。ところが、被害者が死亡すれば、その時点以降の介護は不要となるのであるから、もはや介護費用の賠償を命ずべき理由はなく、その費用をなお加害者に負担させることは、被害者ないしその遺族に根拠のない利得を与える結果となり、かえって衡平の理念に反することになる。(二)交通事故による損害賠償請求訴訟において一時金賠償方式を採る場合には、損害は交通事故の時に一定の内容のものとして発生したと観念され、交通事故後に生じた事由によって損害の内容に消長を来さないものとされるのであるが、右のように衡平性の裏付けが欠ける場合にまで、このような法的な擬制を及ぼすことは相当ではない。(三)被害者死亡後の介護費用が損害に当たらないとすると、被害者が事実審の口頭弁論終結前に死亡した場合とその後に死亡した場合とで賠償すべき損害額が異なることがあり得るが、このことは被害者死亡後の介護費用を損害として認める理由になるものではない。以上によれば、交通事故の被害者が事故後に別の原因により死亡した場合には、死亡後に要したであろう介護費用を右交通事故による損害として請求することはできないと解するのが相当である。
 

2015.04.24

交通事故により後遺障害を負った被害者が事故後に別の原因で死亡した場合、後遺障害逸失利益はどうなるのか?

 後遺障害による逸失利益は、基礎収入に労働能力喪失率を乗じ、これに労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数を乗じて算定することになります。

 では、被害者が後遺障害を負った後に、交通事故とは別の原因により死亡してしまった場合にはどう考えるべきでしょうか。

 この点、被害者が死亡しているのですから、その時点で逸失利益(将来得られたであろう利益)は存在しないとする考え方もあります。
 しかし、交通事故の時点で、その死亡の原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていた等の特段の事情がない限り、死亡の事実は就労可能期間の認定上考慮すべきものでないとするのが最高裁の考え方です。
 つまり、交通事故に遭遇し、後遺障害を負った時点で逸失利益は確定し、原則としてその後の事情変更は考慮されないということです。

 なお、将来の介護費用については、死亡後に要したであろう介護費用は交通事故による損害とは認められないとされていますので注意が必要です。


参考判例
最判平成8年4月25日
交通事故の被害者が事故に起因する傷害のために身体的機能の一部を喪失し、労働能力の一部を喪失した場合において、いわゆる逸失利益の算定に当たっては、その後に被害者が死亡したとしても、右交通事故の時点で、その死亡の原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、右死亡の事実は就労可能期間の認定上考慮すべきものではないと解するのが相当である。けだし、労働能力の一部喪失による損害は、交通事故の時に一定の内容のものとして発生しているのであるから、交通事故の後に生じた事由によってその内容に消長を来すものではなく、その逸失利益の額は、交通事故当時における被害者の年齢、職業、健康状態等の個別要素と平均稼働年数、平均余命等に関する統計資料から導かれる就労可能期間に基づいて算定すべきものであって、交通事故の後に被害者が死亡したことは、前記の特段の事情のない限り、就労可能期間の認定に当たって考慮すべきものとはいえないからである。また、交通事故の被害者が事故後にたまたま別の原因で死亡したことにより、賠償義務を負担する者がその義務の全部又は一部を免れ、他方被害者ないしその遺族が事故により生じた損害のてん補を受けることができなくなるというのでは、衡平の理念に反することになる。

2015.04.17

死亡事故の裁判例のご紹介 東京地方裁判所平成26年11月26日判決

東京地方裁判所平成26年11月26日判決 -自保ジャーナル1939号108頁

50歳女性教員の死亡逸失利益について、この裁判例は、実収入を基礎に労働可能年数67歳まで30%の生活費控除率によって死亡逸失利益を計算しました。さらに、この裁判例は、68歳以降の死亡逸失利益について、被害者が共済年金及び老齢基礎年金を受給することができたこと、被害者の平均余命が86歳までであることを認定したうえで、「共済年金及び老齢基礎年金の性質上、生活費控除率は50%とするのが相当である」と判断しました。


交通事故の実務では、死亡逸失利益の認定にあたって実収入と年金収入でそれぞれ生活費控除率の認定が異なることが多く、生活費控除率は保険会社と意見が対立する典型論点の一つといえます。

2015.04.16

死亡事故の裁判例のご紹介 神戸地方裁判所平成26年10月31日判決 

神戸地方裁判所平成26年10月31日判決 自保ジャーナル1939号98頁

19歳女性の教員志望の大学生がお亡くなりになった事案において、被害者の死亡逸失利益について、この裁判例は、「将来の蓋然性については、高等学校教員として就職することまでは認め難いが、小学校教員として就職することは認められるというべきであり、男女間格差を考慮するのは相当ではな」いとして、職種別・企業規模計・男女計・各種学校・専修学校教員・全年齢平均賃金センサス503万7200円を基礎収入として認定しました。

交通事故の実務では、未成年者や20代の方が被害にあった場合の被害者の基礎収入について、将来の収入増額の可能性を考慮して、事故当時の実収入ではなく、平均賃金センサスを用いて被害者の基礎収入を認定することが多いのですが、どの平均賃金センサスを使うのか、しばしば保険会社と意見が対立します。この裁判例では、男女間格差は考慮せず、かつ、職業によるある程度の絞込みをかけて平均賃金センサスの選択が行われています。

2015.04.10

被害者死亡の場合における逸失利益

 逸失利益とは、交通事故に遭わなければ被害者が得たであろう経済的利益を失ったことによる損害をいいます。
 具体的に言えば、被害者が交通事故に遭い死亡してしまった場合、被害者はその事故に遭わなければ相当期間生存し、仕事を継続していたことが予想され、その仕事をして得られたであろう将来の経済的利益ということです。

 逸失利益は、基礎収入(年収)から被害者本人の生活費として一定割合を控除し(生活費控除)、これに就労可能年数に応じたライプニッツ係数を乗じて算定します。
 なぜ生活費控除をするのかというと、将来得られたであろう収入においては被害者の生活費も含まれているところ、被害者が生きていればその生活費の支出が必要であるのに対し、被害者死亡の場合にはその支出を免れるので基礎とする所得額から生活費として一定割合を控除するということです。
 なお、生活費控除率については、原則として一家の支柱及び女性は30~40%、その他は50%となっています(但し、大阪地裁の運用)。

 さて、上記のような逸失利益ですが、被害者が年金収入しかない場合でも逸失利益が認められるのでしょうか。
 まず、老齢基礎年金については、逸失利益が認められるとされています(最判平成5年9月21日)。
 老齢基礎年金は受給権者に対して損失補償ないし生活保障を与えることを目的とするとともに、その者の収入に生計を依存する家族に対しても同一の機能を営むものと認められるということが理由とされています。
 また、老齢厚生年金についても逸失利益が認められるとするのが実務です。
 なお、年金収入者の逸失利益に関しては、年金の性格からして、収入に占める生活費の割合が高いと考えられることから、生活費控除率を通常より高くすることが多いです。

 これに対し、遺族基礎年金、遺族厚生年金については、逸失利益が認められないとされています(遺族厚生年金について最判平成12年11月14日)。
 いわゆる遺族年金については、もっぱら受給権者自身の生計の維持を目的とした給付という性格を有し、受給権者自身が保険料を拠出しておらず給付と保険料との牽連性が間接的であって社会保障的性格が強いこと等が理由とされています。

参考判例 最判平成12年11月14日
遺族厚生年金は、厚生年金保険の被保険者又は被保険者であった者が死亡した場合に、その遺族のうち一定の者に支給される(厚生年金保険法五八条以下)ものであるところ、その受給権者が被保険者又は被保険者であった者の死亡当時その者によって生計を維持した者に限られており、妻以外の受給権者については一定の年齢や障害の状態にあることなどが必要とされていること、受給権者の婚姻、養子縁組といった一般的に生活状況の変更を生ずることが予想される事由の発生により受給権が消滅するとされていることなどからすると、これは、専ら受給権者自身の生計の維持を目的とした給付という性格を有するものと解される。また、右年金は、受給権者自身が保険料を拠出しておらず、給付と保険料とのけん連性が間接的であるところからして、社会保障的性格の強い給付ということができる。加えて、右年金は、受給権者の婚姻、養子縁組など本人の意思により決定し得る事由により受給権が消滅するとされていて、その存続が必ずしも確実なものということもできない。これらの点にかんがみると、遺族厚生年金は、受給権者自身の生存中その生活を安定させる必要を考慮して支給するものであるから、他人の不法行為により死亡した者が生存していたならば将来受給し得たであろう右年金は、右不法行為による損害としての逸失利益には当たらないと解するのが相当である。

2015.04.09

半月板の再生医療と将来の交通事故実務

半月板の再生を目指す取り組みがなされているそうです。

膝の半月板損傷は交通事故においても後遺障害として認定の対象となりますが、12級以上の後遺障害等級を獲得するには外傷性の画像所見を立証しなければならず、被害者側弁護士としては外傷性の画像所見の立証に苦労することが少なくありません。ところが、もし再生医療の研究が進み、半月板組織の再生が実現すれば、半月板損傷や変形性膝関節症は、治らないもの、つまり後遺障害として位置づけるものではなく、治るべきものとして位置づけられるようになるかもしれません。その場合、高額になるであろう再生医療の治療費の相当性を保険会社が争ってくる可能性があり、近い将来、被害者側と保険会社側が今とはちがった形で対立する時代がくるようになるかもしれません。

2015.04.08

死亡事故に関する重要な最高裁大法廷判決

死亡事故に関して、かつての最高裁判例を変更する、重要な最高裁大法廷判決が出ました。被害者にとっては不利な判例変更となり、実務に与える影響は小さくありません。今回の最高裁大法廷の判決の流れからすれば、自賠責保険金に関して遅延損害金からの既払金充当を認めた最高裁平成16年12月20日判決も、もしかすれば将来的に判例変更されるかもしれません。

【平成27年3月4日最高裁大法廷判決 抜粋】
 労災保険法に基づく保険給付は、その制度の趣旨目的に従い、特定の損害について必要額を補填するために支給されるものであり、遺族補償年金は、労働者の死亡による遺族の被扶養利益の喪失を補填することを目的とするものであって(労災保険法1条、16条の2から16条の4まで)、その補填の対象とする損害は、被害者の死亡による逸失利益等の消極損害と同性質であり、かつ、相互補完性があるものと解される。他方、損害の元本に対する遅延損害金に係る債権は、飽くまでも債務者の履行遅滞を理由とする損害賠償債権であるから、遅延損害金を債務者に支払わせることとしている目的は、遺族補償年金の目的とは明らかに異なるものであって、遺族補償年金による補填の対象となる損害が、遅延損害金と同性質であるということも、相互補完性があるということもできる。


 したがって、被害者が不法行為によって死亡した場合において、その損害賠償請求権を取得した相続人が遺族補償年金の支給を受け、又は支給を受けることが確定したときは、損害賠償額を算定するに当たり、上記の遺族補償年金につき、その補填の対象となる被扶養利益の喪失による損害と同性質であり、かつ、相互補完性を有する逸失利益等の消極損害の元本との間で、損益相殺的な調整を行うべきと解するのが相当である。

(略)

 遺族補償年金は、労働者の死亡による遺族の被扶養利益の喪失の補填を目的とする保険給付であり、その目的に従い、法令に基づき、定められた額が定められた時期に定期的に支給されるものとされているが(労災保険法9条3項、16条の3第1項参照)、これは、遺族の被扶養利益の喪失が現実化する都度ないし現実化するのに対応して、その支給を行うことを制度上予定しているものと解されるのであって、制度の趣旨に沿った支給がされる限り、その支給分については当該遺族に被扶養利益の喪失が生じなかったとみることが相当である。そして、上記の支給に係る損害が被害者の逸失利益等の消極損害と同性質であり、かつ、相互補完性を有することは、上記のとおりである。

 上述した損害の算定の在り方と上記のような遺族補償年金の給付の意義等に照らせば、不法行為により死亡した被害者の相続人が遺族補償年金の支給を受け、又は支給を受けることが確定することにより、上記相続人が喪失した被扶養利益が補填されたこととなる場合には、その限度で、被害者の逸失利益等の消極損害は現実にはないものと評価できる。

 以上によれば、被害者が不法行為によって死亡した場合において、その損害賠償請求を取得した相続人が遺族補償年金の支給を受け、又は支給を受けることが確定したときは、制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り、その補填の対象となる損害は不法行為の時に補填されたものと法的に評価して損益相殺的な調整をすることが公平の見地からみて相当であるというべきである(最高裁平成22年9月13日第一小法廷判決)。

 上記2の事実関係によれば、本件において上告人らが支給を受け、又は支給を受けることが確定していた遺族補償年金は、その制度の予定するところに従って支給され、又は支給されることが確定したものということができ、その他上記特段の事情もうかがわれないから、その補填の対象となる損害は不法行為の時に補填されたものと法的に評価して損益相殺的な調整をすることが相当である。

 以上説示するところに従い、所論引用の当裁判所第二小法廷平成16年12月20日判決は、上記判断と抵触する限度において、これを変更すべきである。

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山本・竹川法律事務所

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